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俺はもう一度、右手を前に出す。掌を広げて炎を作り出した。それは三つに枝分かれし、地面に降り立つ。赤い狼は先程と同じように大柄な体を作り上げた。人を飲み込むほどの大きさ。
俺が人差し指を相手の方へ突き出すと、狼たちは牙を剥き出しにしながら敵へと向かっていく。
三匹の狼を前に優男はレンドウを護るように立ちはだかる。
終わりだ、そう思ったとき、彼は両腕を広げた。
その腕からは真っ赤な羽が広がり、それはまるで孔雀のように大きくなる。
男はその羽を一度強くはためかせた。激しい風が吹き、俺は思わず目をつぶってしまう。次に瞼を開けたとき、狼たちは消えていた。
「な、なんだと」
たった一度の羽ばたきで俺の炎が消えたのか? 焦燥感が高まり、心が騒つく。
「このまま大人しく捕まって罪を償うんだ」
「何を言ってる! 殺せ! あいつを今すぐ殺せ!」
レンドウは相変わらず後ろで喚いている。
彼はチラっと背後を見たあと、もう一度こちらに視線を戻す。
「……どけよ。そいつがどんな奴なのか、知ってるのか? そいつはただの悪人だ。人の命なんて微塵も考えたことのない屑だ。俺は父親を目の前で殺された。そいつにな。どれだけ俺が苦しみ、もがき、耐えてきたか、お前にわかるか?」
これまでの人生が脳裏に蘇り、怒りが込み上げる。苦渋を舐め、地べたを這いずり回ってきた。生きるためにどんなことでもした。
すべては、レンドウを殺すために。
「お前、あのときのガキか? 思い出したぞ! 生きてたんだな。ははは、俺を殺しにきたのか? バカな奴だ。いいか? 俺は常に安全なところにいる。金と権力さえあれば、燎火隊だって雇えるんだよ。おい! 早くやれ! そいつを殺せ!」
レンドウの醜い声が聞こえる。躊躇う理由なんてない。右手に力を込める。
炎は意志だ。どんな意志を込める?
奴を殺す、それだけのために力を使う。
今の俺に残っている力はそう多くはない。
最後の力を振り絞って、狼を作り出す。
六匹の狼。これが俺にできる限界だ。
「レンドウ! 死ねぇええええ!」
俺の合図と共に駆けていく炎の群れたち。
「うわあああ、来る、来るぞ! なんとかしろ!」
優男はもう一度腕を伸ばし、羽を広げる。赤い翼は幾重にもなり、美しいとさえ思ってしまう。
翼を何度も激しく動かすと、バサバサっという大きな羽音がした。
狼たちはその風を避けていき、優男に襲いかかる。何匹かは風によって姿を消された。二匹がそれを掻い潜り、敵に牙を剥く。捉えた、そう思った瞬間、炎が彼を包み込み、それに巻き込まれるように狼は全て消えた。
火柱が薄れ、中から出てきた優男は何の傷も負ってはいなかった。
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