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実際、母さんは、おれを我が子だと思い込んでいるくらいには、病んでいる。彼女は何度も流産と死産を経験し、……いまでいうと不育症にあたるのかもしれない。だが、当時の田舎ではそんな知識もなかったし、あまりにも情報に遅れていた。調べたところ、不育症の女性を見てくれる病院は、日本でたったひとつ。成城学園の近くにあるそうだ。……これも、後から、調べた。
以来、彼女とは時々屋上で話すようになった。彼女は制服のトップスの丈を詰め、スカートを極端に長くし、インナーは真っ赤なのを着る。いわゆるヤンキーに所属される人物だったが、その自由な雰囲気がおれは好きだった。認めよう。彼女は――美人だ。
あまりにもこの田舎では都会的な存在で。近づくこと自体が気後れした。いま思えば彼女はおれの初恋のひとだった。
高校は別だったが東京で突然再会した。緑川という田舎から上京した人間同士で飲もう、という集まりがあって、おれは、それに出席した。その日のうちに、彼女と――。
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