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◆00. prologue【里崎正吾視点】
目の前でいくら老人が喚こうともなんの感情も湧かなかった。――こいつは、おれの、最愛の娘を殺した殺人鬼だ。生きている資格などない。
「わたしのせいではないッ」この期に及んで罪を認めぬ老人に吐き気を覚えた。「あの子が……あの子が、あんなところに立っていたから悪いんだ。わたしのせいではない……ッ」
「黙れ。老害が」足で禿げた頭を蹴る。この、無自覚な老人を蹴ったとて娘は戻らない。「貴様は、ひとを殺しておいて何の罪の意識もないのか。人でなしが。おまえには孫がいるだろう。孫がもし、同じ目に遭ったらどう思う。……糞野郎が」
ぎりり、と老人を縛るロープを持ち上げ、より、――苦しむようにしてやる。あの日、あの炎天下で。バスを待っていた娘は、どんな痛みを味わったのか。何百回も何千回も想像した。胸が切り裂かれる思いがしたが、娘は、それ以上に、痛かったろう。……思い返すだけで涙が出る。――愛里。愛おしい我が子よ。
年長だった娘は、他の子を庇って自分が飛び出したのだ。警察の方からその話を聞かされ、目の前が、真っ暗になった。
愛里。いま、お父さんが、仇を討ってやるからね。待っていて。
「ま、ま、孫には……あの子には、なんの罪もないのだッ」分かっているさ。そんなことは。この、糞爺が。「た、頼む……わたしの娘と孫にはなんの罪もないのだ……助けてくれ……助けてくれぇっ!!」
あの日、愛里も、お父さんにお母さんに会いたい、肺に骨が突き刺さった痛みと苦しみのなかで、最期に、――なにを思ったのだろう。もう、聞くことは出来ない。娘は、旅立ってしまったのだから。愛里。……愛里……!!
「貴様の命乞いなどに意味はない」爺を足蹴にした。――やつは。会見のときと同じように、へらへら笑っていた。「愛里を返せ。……おまえごとき無意味な命が消えたとて、愛里が返ってくることはない。……あの世でせいぜい、命乞いをするんだな」
そして。ナイフを持ち直し、いよいよ、老人を上向きに寝かせ、その、心の臓に突き立てようとする。――そのとき。
――お父さん。やめて!!
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