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急に胃の奥からなにかがせりあがってくる感覚があって、その場で、吐いた。――こんなとき。
いつも、隣で寝てくれている愛里がいたら……愛里がいたら……。
――お父さん、大丈夫? と、夜中であっても必ず起きて、心配そうに、わたしの背中をさすってくれるのに……ああ、愛里……愛里愛里……きみを亡くしたお父さんは、気が狂いそうだよ。いますぐきみのところに行きたい。
けども。
――お父さんは……。
そこらへんに散らかした新聞記事にある写真が目に入る。――浅田の、にやついた顔……。世間は騒然としていた。保育士園児八名を犠牲としたひき逃げ事故を起こしておきながら、悪びれる様子もなく、謝罪は最初に一度した程度。あんな会見でいったいだれが納得するというのか。火に油を注ぎ、逆効果だった。以降は、
『ええ。わたしにも娘がおりますので』
『心配なさるお父さんの気持ちはよく分かりますよ』――その瞬間。スマホをテレビに投げつけた。それだけでも足らず、テレビをぶん投げて、踏みつけて、踏みつけて、踏みつけて――畜生。
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