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『そのとき』が訪れるまでは。平和に。平穏に……。休みの日は必ず浅田宅の周辺をうろついた。浅田の娘を尾行し、浅田の娘が、浅田と同居していることを知り……。浅田には娘がひとりおり、その娘が産んだ娘がひとりいる。愛里よりもひとつ年上で小学校に通っているが休みがちらしい。彼らは事件後も引っ越していない。ペンキで人殺しと書かれた外壁がそのままだ。
浅田に娘がおり、挙句、孫までいることに、憤りを覚える。おれは。浅田三世代が住む、その周辺をマークし、……やがて、浅田宅が見える場所にマンションの一室を借りた。愛里との思い出が詰まった住まいはそのままにした。でなければ、愛里が帰ってくる場所がないから。――いつか、また、一緒に住もう。すべてが終わったら、父さんと、母さんと、おまえとで……みんな、みんな……。
浅田勢吉が出所するまでの十年の歳月を、辛抱強く待った。辛くなったときは必ず胸の中で亡き妻にそして愛里に語り掛ける。そうすると胸のつかえがとれるときみは言っていたね。父さんは、きみから――学んでいてばかりだ。
浅田の孫娘の姿は時々外で見かける程度だったが、すくすくと大きくなり……成長していった。恨めしかった。ある時期から、あの子を見かけるのが辛くなり、見かけると目を逸らし、部屋で泣いた。
だから。まともに顔を見たのは、そのときが初めてだ。
浅田の孫娘は時々コンビニに買い出しに行く。引きこもりと言うからにはてっきり、――丸々とした子を連想するが。思いのほか華奢で、細っこい、すらっとした顔だった。
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