◆01. 悲しみは突然に

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 会社はあれからずっと休んでいた。休暇を取得出来るのは本当は三日程度なのだが、好きなだけ休んでください、と言われてはいた。お客さんからも心配の連絡があったそうだが……なにも、返事をしていない。どう答えろというのだ。  娘――愛里が、すぐそこの部屋から、ひょっこり、あの、愛らしい顔を見せてくれるのではないかと。お骨を持って帰ったというのに、いまだ、信じられない自分がいる。すぐそこに、愛里がいる。愛里は生きている。だって、気配がする。愛里は――。 『お父さんったら。煙草は止めなよ。からだに悪いよ』 『もう。……お腹出てきてから筋トレしたって、遅いんだからね』――おれの不摂生を古女房のように諭すおまえ。きみは――おれの、宝物、だったのに。  テレビを点けた。――いきなり映ったのは。記者会見場と思われる場所で、にやついた顔を晒す、囚人服姿の浅田、だった。 「えぇー。この度は、わたしのことでご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでしたぁー」深々と頭を垂れる浅田の禿げ頭が映し出され、大量のフラッシュが焚かれる。――馬鹿野郎。いますぐ死ね。  *
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