◆02. この怒りはどこに

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◆02. この怒りはどこに

 愛里は、やさしい子だった。 『お父さん。駄目だよ。信号がないところで渡っちゃ』ルーズなおれに比べ、おまえは、色々と口うるさいくらいにルールに厳しくて、頼もしい女の子、だったね。きみはぼくの誇りなんだよ。 『えーこの度は申し訳ありませんでした』 『いえ。わざとではなく。単に、踏み間違えたんです』 『いやだって、踏み間違えることなんて誰でもあるでしょう』 『ひき逃げをしたわけではないです。後から通報するつもりでした』 『……あい、なんとか、ちゃんへ? 知らないですね。知らないのでーその女の子のことはー』 『わたしには娘がおりますので。娘の安否を確認することが最優先でした』――ならば。何故。  その場で血だまりで倒れていた愛里のことを、放置した。逃げ去ったんだ――この、人殺しが!! ――ああ。 「あああああ!!!」  絶叫で目を覚ます。よく眠れていない。何度も何度も悪夢を見、ひどいときは一晩で百回目を覚ます。――あの、浅田が。……へらへらと、にやついた顔で、犯行を語ったあの罪人が……愛里を刺し殺し、血染めにし、逃げ去るそのさまを……何度も何度もうなされる。
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