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「約束を守れなかった私」
「最期に見た夢が君と約束をした時のことだった。もしかしたら、あれは夢じゃなくて、走馬灯だったのかもしれない。
あの場所、あの桜の木、君の格好、君と約束を交わした時の情景がそのままで、あの日の出来事が色褪せていないことに嬉しかった。
『この桜の木の下で、また会いましょう』
そう言って、笑顔で小指と小指を絡めて指切りをした。
桜の雨に降られ、桜の香りの中でした君との指切りは、今思うと、私にとって今際の際の約束だったかもしれない。
心残りなんてない、とは言えないけど、君との過ごした日々は照れくさくて、出会えたことが幸せで、夢のようで、本当に素敵な恋でした。
今の私に残された時間なんて少ないのに、それなのに、君に想いを馳せている心が歯がゆい。こんなことなら、約束なんてしないで、あの日に想いを伝えていれば良かった。
君との約束を果たすことが出来なくなってしまったけど、次に咲く桜の花を見ることも出来なくなってしまったけど、私は消えることない花を咲かせました。」
彼女は、いつ絶えてもおかしくない状況を彷徨いながら、自分のこと、彼と過ごした日々のこと、約束を守れなかったこと、そして、彼に抱いている感情の全てを手紙に込めて書いていた。
*
「よし、書けた」
彼女は変なところがないか手紙を読み返した。
読まれるのは少し恥ずかしいなと思いながら、手紙を封筒に入れようとした時、疲労感に襲われた。
「疲れたな。少し、休憩しよう」
そう言って、彼女は静かな眠りについた。
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