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7
あれから十年が経過し、彼女は今、死の床に就こうとしている。
私は人様から多くの物を盗んできた。それを生活の糧として生きてきた。そして一人の女性を盗み、穏やかな暮らしをしている。
だけど心は深い湖の底に沈んでしまった。それは生涯を掛けて愛した人を、失おうとしているからだ。
彼女は私の心を奪った。そして奪ったまま天国へ旅立とうとしている。
贅沢なんて必要ない。二人きりで穏やかに暮らす事が出来れば、それだけで幸せなのだ。だからもう少し穏やかに過ごす時間が欲しい。
湖面を吹き抜ける風が彼女の前髪を揺らす。薄っすらと笑みを浮かべながら彼女は目を閉じる。あと少しだけ時間が欲しい。無駄に過ごしている誰かの時間を少しだけ譲って欲しい。あと少しだけ……
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