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 ある日、東京郊外の閑静な住宅街で極上のを見つけた。  お城の様に堅牢な門構え、背丈を遥に凌ぐ石造りの塀に囲まれた、異国情緒の漂うレトロな洋館で、豪邸と呼ぶに相応しい建物だった。  公道から門までのアプローチが数百メートルもあり、道の両サイドは短く刈り揃えられた芝生が広がっていて、手入れの行き届いたツツジが等間隔で植えられている。  重々しい門扉は車が出入りすると自動で開閉し、閉じられてしまえば外からは何も見えない。敷地の中がどのような景色になっているのか、塀の外からでは伺い知る事が出来ない。 「この家には間違いなく金がある! やれる!」  敷地の中から金の匂いが漂ってきた。現金は期待出来ないかもしれないが、換金できそうなお宝の匂いがプンプンと漂う。一見すると警備は厳重そうに見えるが、こういう外部との接触を絶っている家は、忍び込んでしまえば存外に脆いものなのだ。これまでの経験がそう語っていた。  朝、昼、夜、それぞれ曜日を変えて何度も下見をした。下見だけで一ヶ月以上を要した。誰が住んでいて、どういうタイミングで家を空け、誰がいつ家に残っているのか、完璧に調べ尽くした。豪邸ではあったが、住人は、家主一人だけと言う事が分かった。  邸宅に出入りしているのは、通いの家政婦と専属の運転手。それに庭師と家主の知人らしき人が稀に招き入れられるだけで、豪華さに反して、極端に人の出入りが少ない不気味さがあった。  家政婦は毎日きっちり19時になると帰る。家主はその一時間ほど前に運転手付きの車に乗って帰宅し、運転手は家主を送り終えたら即座に帰途に着く。ただし金曜日の夜は家主の帰宅が遅くなる日が多かった。家政婦が帰宅してから、家主が戻るまで空白の時間が出来る訳だ。  忍び込むならば留守に越した事は無い。ましてや塀の中の様子が伺えないとなれば尚更だ。万が一警備網に掛かったとしても接触を避けられる。接触すれば仮に逃げ切れたとしても足がついてしまう。足がつけば、それまでにやってきた盗みが表に出てしまうかもしれない。そうなったらもうこの仕事は続けられない。
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