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あれから二週間、今日の女神は魚に話を聞かせていました。逃げるタイミングを失った魚は半分涙目です。ですが、何かを喋らずにはいられない女神は、マシンガントークをやめられません。
そんな二人の戦いに、制止をかけたのはあの轟きでした。目をやった先、鉄の斧が降下をはじめています。買い換えたのか、新品になっていました。願えば叶うを実感した女神は、今までで一番早く上へと突き抜けました。
「…………おおん」
しかし、そこにいたのは違う青年でした。触れるべきところもない普通の格好をしています。
いつもだったら嬉しいはずの、新たな出会いがなぜか嬉しくありませんでした。むしろ期待を裏切られてがっかりしましたが、女神の務めは果たさなければいけません。
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
「金の斧です!」
女神は萎えました。あまりにがっかりしすぎてシオシオです。美しい心の青年を待ち望んでいた分、汚い心が水中のごみより汚く見えます。
急にやる気を失った女神は、そのまま底に潜って戻りませんでした。
あれから一週間、今日も女神は面倒な作業をしていました。持ち手に滑り止めをつけたり、不必要な金を埋め込んだりします。しかし、作れど作れど海中に積み上がっていくだけでした。
もう会えないのかな。そう思ったとき、求めていた音が轟きます。見えたのは、ちゃんとあの青年の斧でした。
金と銀の斧も忘れ、神速で水から顔を出します。立っていたのも、ちゃんと会いたかった青年でした。
「わ~会えて嬉しいわぁ! あっ、斧忘れてしもた! それより元気しとった? この間ねぇ、君じゃない子が来て~」
ふふっと、勝手に零れたような笑声が、女神の耳に届きます。青年はおかしそうに左手を口に充て、小さな震えつきで笑っていました。
幸せを切り取ったかのようなワンシーンに、女神の胸が高鳴ります。ずっと見ていたい、そう思ってしまうほどです。
「で、今日はどうしたん? また滑らせた?」
「はい、滑らせちゃいました」
「それやったら滑り止めつきの斧があるんやけど要らん?」
「……お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です」
「そっかー」
最初はがっかりだった女神も、三度も断られれば慣れてきます。少し寂しくはあるものの、変化のなさに安心感すら覚えました。
「妹ちゃん元気?」
「元気です」
「昨日何食べた?」
「プルスとゴートミルクです」
「何それ」
青年の方も警戒心をほどいてくれたのか、朗らかに答えてくれるようになりました。
三度あることは四度ある。そんな気でいた女神は、また会える気満々で、青年が帰るまで下らない話を続けました。
まさか、その後あんなことが起きるなんんて、さすがの女神も想像していませんでした。
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