消えた被害者

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消えた被害者

12:46 PM 「本当に見たのよッ!!」 昼下がりのキャンパス。 校舎の割れた窓の下、まだ少し幼さが残った女性の叫び声が上がっていた。 肩に掛かった少しクセのある焦げ茶色の髪が声を上げる度に激しく揺れている。 名前はアイラ 歳は21。 スエードのジャケットとジーンズ姿の彼女、両手を腰に当てながらだいぶ興奮している様子だ。 卒業が近いが彼女もまた、この大学に通っている生徒だった。 「落ち着いてアイラ!」 興奮気味のアイラを何とか宥めようと、声を掛けたのはこの大学の女性教師だ。 名前はグレース 歳は30前後。 ワンレンの明るい茶髪を肩下まで伸ばし白いブラウスにジーパン姿の彼女。 どこか焦りがあるのか腕を組みながら時たま手の爪を噛む仕草を見せている。 「なら落ちたその女はどこへ行ったんだ?」 殺伐としたその現場には、アイラとグレースの他にもう一人男がいた。 名前はジャック 30歳。 明るい茶髪に短い前髪をワックスで立たせたベリーショートヘアー。 ワイシャツとネクタイ姿で暑いのかスーツのジャケットは着ずに肩に掛けていた。 『女性が落ちた』と通報を受け駆け付けた刑事だ。 「嬢ちゃんは三階の窓から女が落ちたのを確かに見たんだよな? なら遺体か怪我人が窓の真下に倒れてるもんだろ?」 「それはッ…………」 「それとも何か?落ちたあと急に起き上がって『大変デートに遅れちゃう!』ってトコトコ歩き出したってのかッ!?」 ジャックは勢い良く捲し立てながら手の甲に人差し指と中指を立たせ、人が歩く様なジェスチャーをして見せた。 「ふざけないでッ!」 ジャックの言動に怒りのボルテージがあがるアイラ。 「そうか!?ふざけてんのはどっちだろうなッ!」 ジャックは通報を受けてから五分程度で大学に到着したものの、落ちたと言うキャンパスの現場を見ても遺体どころか怪我人の情報すら無かった。 ジャックにも苛立ちが募る。 「きっと誰かが直ぐ遺体を運んだのよッ!!」 アイラは両手で地面を示しながら思いついたようにまた声を張り上げた。 「そうかい、そいつは大変だな。直ぐに見つけないと……」 ジャックは腰に手を当てながらじっと アイラの顔を見た。 発した言葉とは裏腹で、明らかに捜索するつもりは無いといった態度だった。 「私、ホントに嘘なんかッ!!」 「あのジャック刑事! 私からも調査をお願いします……」 グレースが落ち着いた様子で間に入ってきた。 「アイラの言っている事がもし本当だったら、怪我人や遺体を隠すような人間がこの学校に隠れているって事です」 「です」 「だから私はッ!」 「噂が広まれば他の生徒達の不安材料にもなりかねませんッ」 グレースも祈るようにジャックへ調査を切望する。 「なるほど、これまで一ヶ月間この嬢ちゃんから三回『落ちた』って通報があったわけだが……」 「…………」 「…………」 「三回とも落ちた人間は一人も見つかってこなかった……て事は少なくとも三人は連れ去られいるのか? そいつは大事件だ!」 「それはッ……」
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