階段

1/1
前へ
/25ページ
次へ

階段

「キャアアアッ!!」 アイラは勢い凄まじく踊場まで落ちていった。 「アイラッ!?」 「大丈夫かッ!?」 グレースとジャックが直ぐさまアイラに駆け寄る。 「手が!真っ赤な手が階段からッ!!」 アイラは駆け寄って来たグレースの腕を強く掴むと、自分の見た物を必死に伝えた。 「まさかッ!?とにかく怪我は!?」 しゃがみ込む彼女の身体をグレースが支えると、痛みに耐えるアイラは足首を擦った。 「足が少しッ……」 アイラは怪我の具合を見ようとジーンズの裾を捲る。 「ッ!?」 「ウソでしょ!?」 そこには人間の指のような赤黒い痕がくっきりと残っていた。 「…………ッ」 アイラは足首に残った手の痕にショックを受け眉間にシワを寄せる。 グレースの方は恐怖と困惑からか顔が真っ青になっていた。 「救急車は?!必要か?」 ジャックも心配になりスマホを取り出した。 「大丈夫ッ……多分、少し捻っただけよ……」 「一応、保健室で診てもらいましょ」 グレースの進めにアイラは力無く「ええ」と答えるとグレースの肩を借りてゆっくりと立ち上がった。 グレースはジャックの顔を無言で伺う。 「この場を離れても良いですか?」 と言う意味だ。 「ええ……こっちは適当に見たら帰ります」 ジャックの返答に二人はゆっくりと保健室を目指した。 二人が階段を降りて行き、完全にその姿が見えなくなるのを確認したジャックは…… 「やってくれたなッ!!再三の忠告にも関わらず!!」 突如誰もいない空間に怒号を上げた。 「言ったよなッ!? 「問題を起こしたら消す」とッ!!」 当然、誰も居ない空間から返答が返ってくることもなくジャックの叫びだけが周囲に響いていた。 「 「何も事を起こさなければ相手にしない」とッ!」 ジャックはズボンのポケットから透明の液体が入った小瓶を取り出した。 「それとも、神父を辞め刑事になった俺には……」 小瓶の蓋を開け割れた窓の方へと…… 「祓えないと思ったかッ!! 」 液体を豪快に撒き散らした。 『ギィ――アアアアッ!!』 突如、誰も居ない空間から断末魔の様な叫び声が響き渡った。 液体の正体は聖水。 悪霊や悪魔を弱らせる事の出来る神によって浄められた聖なる水である。 窓に辛うじて残っていたガラスの破片がジャックの顔を目掛け飛んで来た。 破片の一つがジャックの頬を掠め赤い線を作っていたがジャックは気にする事なく祈祷書の祈りを唱え始める。 「皆の主よ邪悪な霊との戦いにおいて、私たちをお護りください」 ジャックが祈りを唱え始めると、割れた窓ガラスの前に長い髪を垂らした女が現れた。 『ウゥッ…………ウ――……ゥウ……』 女は泣き声とも呻き声ともとれる声を漏らしている。 本来ブロンドカラーだったであろうその髪色は血で真っ赤に染まり、顔を覆い隠した髪の先からはポタポタと真っ赤な血が垂れ続けていた。 『ゥ……フゥッ……ゥウヴヴヴ』 次第に女の声は獣の呻きが混ざったような声に変わっていった。 「泣きたきゃ地獄に還ってからッ」 ジャックが女に聖水を浴びせようと小瓶を振り上げた瞬間…… 「待ってッ!!」 「ッ!?」 突如現れた青年にその動きを止められた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加