第一話 三月「雀始巣―すずめはじめてすくう―」

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「蝶はどこを飛ぶかなんて決めてないと思います。気軽にひらひら飛んで、疲れたら休めばいい。この縁側はもうすみれさんのものですよ」  捨てた物たちにも意味があったのだろうか。この七年は無駄じゃなかったのだろうか。  そう思い続けた日々が、桜の花びらのようにちりぢりになっていく。  私が無にしようとしてた時間が、何も知らないはずの先生によって報われていくような気がした。 「……すみれさん?」  隣の先生が心配そうに私をのぞいている。気づくと私は泣いていた。 「あなたは頑張ってきたんでしょうね」  先生はそう言ったきり、何も言わず桜を眺めていた。  私は先生に背中をさすられたような気がした。あたたかい言葉は、私の疲れた心にはまだ毒だ。  そのまま私は縁側で静かに泣き続けた。  なぜ泣いているのか自分でもわからなかったが、泣いておくべきなのだと思った。もう我慢はしない。そう決めたのだから。  今日から、少しずつ新しい私になっていこう。  働いてから人前で泣くのは初めてだと気づいたころに、先生が茶碗蒸しを出してくれた。 ほかほかと湯気の立つ甘い味に筍の触感を見つけて、春が来たんだな、と思った。
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