第二話 四月「霜止出苗―しもやみてなえいずる―」

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 布団からのそのそと這い出る。せめて、という気持ちで、ワンピースに袖を通す。青、水色、淡いピンクの花が全体にあしらわれた黒のシフォン。落ち着いているけれど春らしい。大人っぽい中に、可愛らしさがあって気に入っていた。買ってから袖を通すのは今日で二回目だ。気に入っていたというのに。  「女」という記号が、仕事を閉ざしていくことを悟った時から、私はワンピースはおろか、スカートすら履くことを止めた。ネイルも、アクセサリーも、化粧も、髪型も、「女っぽいもの」はすべて消した。ぎゅっと髪を一つに束ねて、ぺたんこな黒いパンプスで頑なに地面を踏みしめていた。  あの時着ていた服はもうない。ここに来た時に着ていたパンツを捨てて、最後。部屋に置いてあった古い桐の衣装箪笥の中身はワンピースだけでは到底埋まらなかった。  箪笥扉の内側にある鏡に映った私は、借り物のように見える。本当の自分はこんな姿だったのだろうか。もう覚えはなかった。  久しぶりに袖を通したワンピースは、軽やかな素材なはずなのに、随分と重たく感じる。結ばずにおろした髪は、結ばれたがっているようにも思えた。 「すみれさん、起きていますか?」  先生の声が遠くから聞こえる。
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