第二話 四月「霜止出苗―しもやみてなえいずる―」

6/12
前へ
/124ページ
次へ
「ほらほら、早く食べないと。お餅、固くなっちゃいますよ」  先生に促されるままに、座布団に座る。  せっかくなので、先生がどうしても食べたかったというずんだを選ぶ。嘘みたいに綺麗な黄緑色が、青い空に映える。シアン、マゼンタ、イエロー、それぞれ何パーセントくらいだろうか。自然にできた色を数値化してしまう作業は、なんだか不躾な気がする。  菫柄の茶碗に緑が入ると、花畑のように見えて可愛らしい。今まで随分長いこと、この茶碗を使ってきたが、花畑になったことはなかった。  まだ湯気の立つお餅を口に運ぶ。少し焦げた苦みの上に、ずんだの青くて甘い味が広がる。外はぱりぱり、中はもちもち。頬張る頬っぺたはほくほくだ。 「ずんだ、いいですね。先生」  いいでしょう、すみれさん、と先生は満足そうにしている。お餅を焼いていても、先生は高雅な雰囲気だった。相変わらず着物が似合う。庶民的な雰囲気ではなく、高貴な人のお遊びなのではないかと思うほどに。 「じゃーなー、すみれー。後は頼んだぞー」  もちもちとした頬っぺたに、お餅を詰め込んだ子どもたちは、午後早々に帰っていった。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加