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「いえ、あの。ワンピース、褒めてもらったことなくて……」
先生は驚いたような顔をしている。そして、ふと庭を見つめて、「僕はワンピースのすみれさん、好きですよ。軽やかで、本来のすみれさんのような気がします」と言った。
「本来、ですか」
「そうです。羽化した蝶だから。パンツスタイルも素敵でしたけど、あれは少々緊張していて、堅苦しい。やっぱり蛹みたいでした」
先生はすごい。もしかしたら、働いていた頃の私を知っているのかもしれない。
「先生、私、働いてた時はワンピースもスカートも着たことないんですよ。大好きだったのに」
先生がどんな顔をしているのか、私は見ることができなかった。その代わりに先生の節くれだった、優しそうな手を見つめていた。何処へ行く当てもなく、手は障子紙を撫でている。
「女っぽいと女だからって言われるんです。でも、そうしているうちに、自分がわからなくなっちゃって。やりたいことも、作りたいものもわからなくなっちゃった」
糊が乾かないうちに、勢いよく紙を貼りつける。とんとん、と紙を軽く叩いて木枠に押しつけた。木枠がかこんかこんと音を出して揺れる。
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