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「みどりせんせー、こんにちはー」
縁側から元気な子どもたちの声が聞こえてくる。
「あれ、もうそんな時間ですか」
先生が見上げた先にある古い掛け時計を見ると、三時を過ぎていた。
「あ、書道教室の」
「ええ。火曜日と木曜日の三時から。騒がしいかもしれないけれど、よろしく頼みます」
教室はこちらです、と先生は案内を続けていく。縁側に立つと、ほんわりと足の裏があたたかい。日に焼けた床は擦れて、色が明るくなっていた。
開け放たれた戸に倣って私も鼻から大きく息を吸い込むと、春のひだまりの匂いがした。
子どもたちはわらわらと縁側を乗り越えて、座敷へと上がりこんでいた。慣れた手つきで机を出して準備を始めている。どうやら玄関は使わず、縁側から出入りする決まりになっているらしい。
「みなさん、こちらすみれさんです。よろしくね」
「あ、八尾すみれです。よろしくお願いします」
突然の紹介に驚いて、子ども相手にかしこまってしまった。
「翠先生、新しい生徒?」
小学生の純粋な疑問は怖いものだ。森糸さんは、
「そうですね。生徒さんみたいなものです」
と、笑っている。先ほどの見透かしたような目は、どこかに隠されたようだ。
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