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膝を折って、子どもたちの目線に合わせながら柔らかく笑う森糸さんは、縁側に差し込む光に照らされてぽかぽかとした雰囲気を纏っていた。子どもたちの頭を撫でる大きな手から伸びる指は綺麗なのに、どこか節くれだっているようにも見える。優しくて力強そうな手だった。
「すみれ、よろしくな。おれたちは先輩だぞ!」
「……よ、よろしくお願いします……」
子どもにまで恐縮してしまう性格だから、こんな所にいるんだろうな、と思った。
「今日から僕は先生だそうです、すみれさん」
子どもたちと一緒に笑う先生の笑い皺が綺麗で、なんだか憎い。
翠先生と呼ばれた紳士に、笑わないでください、と言いたかったが、それもできなかった。代わりに、はあ、と短く相槌を打ち、少し笑ってごまかしておく。
人生の再スタートがここから始まる。
のか?
私は一抹の不安を胸に抱えて、ぎしぎしとなる階段を先生の後ろについて歩いていく。
「子どもたちと一緒にいると、元気をもらえますよ。若々しくいられる」
「そういうものですか」
「ええ、時間があったらすみれさんも一緒に参加してみてください」
「……時間があれば」
そう答えた私はいつの間にか二階の角部屋に案内されていた。
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