第一章 チャイラ・トアン

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 十三才、女学校の中等科に上がって間もなくのこと、チャイラは教室で、後ろの席の子から理由もなく髪の一部を切られた。『チャイラってなんか暗いよね』。ある少女のほんの些細なひと言が、インク瓶のフタを落とすときみたいに、カチャンと音を立てたのだ。  チャイラの頭の中で、光る銀のハサミの鋭い音が、切り裂くように響いた。シャキッ。薄い茶色の髪の毛が、わずかに取り除かれる。チャイラの平凡なおかっぱ頭の髪は、ほんの少し切り取られた程度では、一見しても目立たない。しかしチャイラ自身の中のなにかを削り取るのに十分な音だった。  表立って、いや裏でも、真にいじめを受けた認識はなかった。しかしなぜだか周囲の女子生徒があまり口を聞いてはくれない。勉強も実習もできなかったチャイラのことを、遠巻きに見て嘲るように笑う。  女学校にはつきものの被服の時間、型紙に沿ってチャコペンで型を取る方法がうまくわからず、同じグループのよくできる女子生徒に聞いた。 「自分でやったら?」  すげなく断られた。それを聞いた周囲がまた、嘲るように笑う。ぽつりと一人取り残され、「ごめん」と呟いた。チャイラは彼女たちの顔を見渡し、皆が同じ目をしていると気づいた。その後、どうやってその時間帯をしのいだのか、チャイラには記憶がない。ひらひらとなびく制服たちが、チャイラの目の前を隠していく。水色のスカートの裾に金の縁どりが眩しい。自分もまた同じ制服を着ているのに、チャイラの水色だけがくすんでいる気がする。
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