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キッチンの椅子をコンロ前まで運び、上に乗ってレンジフードの張り出し部分を覗き込んでみた。すると、そこにあったのだ、婚約指輪が。記念日の刻印もしっかりと彫られている、僕の指輪が。もちろん、椅子の上に乗らなければ手の届かない場所に置いた記憶などあるわけがない。でも本当に、指輪は店主の示したところで見つかったのだ。
「それはよかった。では、今日は別のお探しものですか」
指輪が見つかったことなど、さも当然のような穏やかな表情で店主はたずねる。僕は消え入りそうな声で答えた。
「また、失くしたんです。婚約指輪を」
絶対に失くすまいと、財布のコインポケットの中に入れておいたはずなのに。指輪が消えていることに気づいたのは、五日前。
「それはお困りでしょう。当店ではお探しものの大小……回数にかかわらず、一件五千円で承っております」
僕が五千円を差し出すと、店主は机に大判の住宅地図帳を広げた。
「今回もご自宅から探してみましょうか。あ、すみません。あの写真をもう一度見せていただけないでしょうか」
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