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こんなことになるなんて、思ってもみなかった。三度、この店を訪れるなんて。僕は『失セモノ出ル』の扉を勢いよく開けた。
「いらっしゃ……」
店主の挨拶をさえぎるように、僕は五千円札を机に叩きつけた。
「もう一度。もう一度、婚約指輪を探してください」
前回、彼女の実家を訪れたのは夏の暑い盛りだった。それからひと月と経たず現れた僕の姿を見て、彼女のご両親は驚きながらも家へあげてくれた。指輪はすぐに見つかった。二階、彼女の部屋のテーブルに無造作に置かれていたのだ。
もう絶対に失くすまいと、ジュエリー用の小袋に入れ、預金通帳や印鑑とともに押し入れの貴重品ボックスの中へしまった。……はずだった。それが、三日前。
嫌な予感が頭をよぎり、昨夜確認してみると、小袋は空っぽだった。指輪は跡形もなく消えてしまったのだ。僕はいてもたってもいられず、会社に休みの連絡を入れて、朝一番で店主のもとへ駆けつけた。
「もう、何がなんだかわかりません。こんなことってあるんですか。指輪を、指輪を」
慌てて言葉にならない僕を尻目に、店主は穏やかな物腰で住宅地図帳を広げる。
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