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「では、婚約者さんのご実家から始めてみましょうか。あ、指輪の写真を……」
僕はスマホを取り出した。笑顔で手の甲を向けている、彼女と僕。店主は左手を写真にかざし、もう一方の手でペンデュラムを垂らす。ゆっくりと大きな円を描く緑色の宝石。「もう少し東方面ですかね」といいながら、ページを二枚めくる。振り子の回転速度がしだいに早くなり、描く円が小さくなっていく。市街地から離れた山の麓で、ペンデュラムの回る速度が一段とあがった。
「ここですね」
店主が指し示した場所を見て、僕は頭を抱えた。
「そんなことあるわけがない。こんなことあっていいはずがない」
その場所は、霊園だった。豊かな緑に囲まれた静謐な墓地。僕はここを訪れてはいない……今月に入ってからは、まだ。
店主は深々と頭を下げて謝った。
「申し訳ございません。ついつい余計なものを探してしまいました」
店主の視線は写真へ向けられていた。僕たちの……いや、彼女の笑顔へ。
「ついうっかり、婚約者さんの居場所を探してしまいまして。お亡くなりになられていたんですね」
僕はガックリとうなだれる。
そう。僕の婚約者はすでに死んでいる。
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