#あの日の約束

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 忘れたくてもわすれられない、四年前の出来事。結婚式の準備で忙しかった、ちょうど今頃の時期だった。体調を崩した僕のために、彼女は風邪薬を買いに車で出掛けたのだ。  マンションの駐車場を出て、百メートルと離れていない交差点で、それは起こった。  信号無視で突っ込んできた大型トラック。  荷台と公民館の外壁に挟まれて、驚くほどぺしゃんこにつぶれた軽自動車。  衝突の瞬間は、多くの人が目撃していたようで、とんでもない轟音が鳴り響いたという。  僕の耳にまでは、衝突音は届かなかった。現場へ急行した救急車のサイレンも、聞こえなかった。僕は布団にくるまって、いびきをかいて寝ていたのだ。たいした熱でもなかったのに。何も知らず、アホみたいに。  僕は彼女の遺体を見せてもらえなかった。とうてい目にできる状態ではなかったらしい。彼女のご両親が見せることを必死で拒んだ。精神的なショックを避けるためだとなだめられた。警察も説得側に回った。見せてもらえたのは、アコーディオンみたいに横へ縮まった軽自動車だけだった。  結婚の約束を果たせないまま、あの世へ旅立った彼女。  あれからまだ、四年しか経っていない。 「……だから、何だって言うんですか」
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