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僕は体の奥底から声を絞り出した。
「……だから、何なんですか。まさか、彼女が指輪を隠したとでも言いたいんですか。四年前に死んだ彼女が。馬鹿ばかしい。幽霊ですか。オカルトですか。超常現象ですか。ふざけないでください。そんなことあるわけない」
僕は首を振った。頭の中で渦巻く疑念や怒りを振り払うように、精一杯振った。
優しかった彼女。
僕のことを第一に考えてくれていた彼女。
店主の憂いを帯びた視線から、言いたいことはわかった。
「え、何ですか。死んだ彼女が『もう忘れろ』と、『忘れて前に進め』と伝えているとでも言いたいんですか。そのためにわざわざ婚約指輪を隠してるって。くだらないにもほどがありますよ。くだらな過ぎて、呆れちゃいますよ」
もし幽霊なんてものが存在するのなら、僕の目の前に現れて直接伝えればいいじゃないか。自分の口で言えばいいじゃないか、目の前に現れて。目の前に……ああ、幽霊でも何でもいいから、もう一度現れてくれないか。
店主はまっすぐな目でこちらを見つめる。
「もう四年も前のことなんですか。わたしには幽霊がいるかどうかなんて、わかりません。わかるのは、この振り子は正しいってことだけです。ほら」
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