#あの日の約束

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 店主は「ご紹介ですか、それはそれは」とつぶやきながら、引き出しから一枚の紙を取り出した。 「お名前と年齢と住所、それから連絡先をご記入いただけますか」  出された筆ペンに書きづらさを感じつつ、僕は『野村数彦 27』と記した。 「お探しものは、指輪ですね。当店ではお探しものの大小にかかわらず、一件五千円で承っております」  店主はそこで言葉を区切ると、住所と携帯番号を書き終えた僕の顔をじっと見つめて何度もうなずいた。料金は先払いということか。財布から五千円札を出す。店主はうやうやしく頭を下げて受け取り、そそくさと引き出しにしまった。胡散臭さにため息が漏れてしまう。 「で、お探しものは指輪と。やはりお客さまにとって大切なものなのでしょうね」  すべてを明け透けに語るのも抵抗があったけれど、ある程度詳細を伝える必要はあるのだろう。僕は警戒を怠らぬよう、慎重に受け答えをした。 「婚約指輪です」 「それは大変だ。婚約者さんは相当お怒りではないですか」 「彼女には話してません」 「では、知られる前に見つけないと。失くした状況をお話しいただけますか」  失くした状況がわかっていれば、こんな所には来やしない。わからなくて困っているから、来たんじゃないか。こんな怪しい店に。
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