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この人は何をしているのか。地図帳を広げ、宝石のついたチェーンをぶら下げている。怪しげな行為に、僕はわずかに椅子を引いた。
垂らした勢いで前後左右に揺れる宝石。その揺れは、しだいに大きな円を描き始めた。クルクルとゆっくりマンションの上を旋回している。
「あ、写真をもう一度見せてください」
言われて、スマホの画面が暗転していることに気づく。再び表示させると、店主は空いた左手の平を写真にかざし、チェーンへと神経を集中させた。
「あのぉ、これで何がわかるんでしょうか」
僕の質問をよそに、店主は宝石の回転を目で追っている。すると、宝石の旋回がしだいに早くなり、描く円が小さくなっていった。ほどなく、その回転は異様な速度と不自然なまでの小さな円となる。怪しげな光景に眉をひそめる僕。
「指輪はご自宅にあるようですね。もう少し範囲を狭めてみましょうか。ご自宅の間取りを書いていただけませんか」
店主に促され、僕は筆ペンを握らされる。これで何がわかるというのか。あの宝石のついたチェーンは何なのか。怪しさ満点の店主へ向けて、あからさまに首をひねりながらも、僕は記入用紙の余白にマンションの間取りを書く。
「できるだけ詳しくお願いします」
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