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「一緒に紅葉を眺めたり、美しい風景の中でたくさん話したり。こうして綺麗な空気を吸いながら出湯に浸かったり。ふたりでともに楽しみたいと計画していたことがいっぱいあったのに。お前ときたら、私が提案する全てを素っ気なく断るものだから、ひどく寂しいのだぞ! 指折り数えて待ちかねて、この日を楽しみにしていたのは私だけか?」
あ……。
「もしや、今も嫌々、付き合っているのか? うちの鞍馬の別邸ではなく、お前のところの別邸に誘ってくれたから、お前も私と同じ気持ちなのだと喜んでいたのだが」
「申し訳、ありません」
零れた謝罪の声は、震えてしまっていた。呑気そのものの様子で従者と出湯を楽しんでおられた建殿の、思ってもみなかった心の内を聞かされて。
まさか、私と同じように、ふたりで過ごす今日を楽しみにしてくださっていたとは。
「あの、違います。信じていただけないかもしれませんが、決して、嫌々お付き合いしているわけではありません」
「おぉ、それは本当か?」
「はい。出湯にお付き合いせず、足湯のみにしていましたのは、先日の風邪が長引いたことで家の者に心配をかけてしまったからで。素っ気なくしたつもりはないのです」
私らしくないことをしている。言い訳に必死だ。本当は、建殿と従者の少年の仲の良さが面白くなくて、せっかくのお誘いを断り、ふたりから離れて拗ねていたというのに。
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