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「そ、そうだろう? お前もそう思うだろう? だが、楓や山躑躅、水楢がほろほろと風に弄ばれるさまも捨てがたい。そこで私は思ったのだ。都から離れ、自然の中で紅く染まる木々の美しさをじっくり堪能したいものだ、と」
「はぁ、なるほど。それで紅葉狩りなのですね?」
やっと話が繋がった。つまり、執務を離れて物見遊山に行きたい。その言い訳として桜の落葉を見せたということか。
「はいはい。どうぞ、ご勝手にお行きくださ……」
「だから、光成。お前も一緒に行かないか? うちの別邸が鞍馬にあるのだよ。なかなかに居心地の良いところだぞ」
「えっ? わ、私っ……私、ですかっ?」
恥ずかしいことに、声がひっくり返ってしまった。
けれど、それも仕方がない。建殿が紅葉狩りに行っている間、不在の日々をとても寂しいと思いつつ、勝手に行けばいいと強がっていたところに同行の誘いを受けたのだ。
いや、でも本当に誘われたのか? 寂しさのあまり、自分に都合のよいように聞き間違えた可能性も否めない。
「うん、どうだ? 紅葉を眺めて心を潤した後、川魚をともに食おうではないか」
聞き間違いではなかった! 私をお誘いなのだ! 建殿が! この私を!
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