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「そうですねぇ……鞍馬も良いですが、淡海(おうみ)(ほと)りはどうでしょう。大津に我が家の別邸があるのですが、あちらも魚が美味しいですし、湯にも浸かれますよ」 「おぉ、出湯(いでゆ)か。それは良い。行く行く! 楽しみだなっ」 「ふふっ。そうですね。では早速、家人(けにん)に手配させます」  自分で自分を褒めてやりたい。この素早い話題転換を。  聞き間違いではなく、本当に私をお誘いくださっていたのだと判明した直後に行き先変更を提案できた機転を。  鞍馬山も風光明媚な地ではあるが、如何(いかん)せん、(みやこ)の範囲内。日帰りとなるだろう。が、淡海(おうみ)ならば日帰りは無理だ。  ふふっ、さり気なく出湯(いでゆ)という現地の魅力をちらつかせ、見事に淡海(おうみ)へと誘導した私、偉いぞ。  一泊、出来れば二泊。建殿との紅葉狩りを存分に楽しもう。そうしよう。  心から好きな人ではあるが、日々、繰り返される建殿の失敗のせいで、常にひどい迷惑を(こうむ)っているのも事実。  蔵人としての日頃の疲弊を、恋い慕う人とふたりきりで過ごす楽しいひと時で癒したいのだ。
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