死んでも○○したくなかった私は超苦手なバナナを食べました

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私は眼前にいるボロボロのスーツ姿が目につくAIを前にして思った。 私はいまも、そしてこれからもAIを処分する気は毛頭ない。 くだらない理由とはいえ創ってしまったからには最後までそれを愛する責任がある。 常日頃からそう考え、その思想をAIにも植え付けていた。 だからわかる。AIは私を殺しに来たのではない、と。 「なにが望みだ」私はもう一度訊ねた。 「車の鍵と、アパートの鍵と、お前のスマホ。盗んで回るのは飽きた。足がついて面倒臭い」 「それだけか」 私が訊ねると、AIの私はぐっと息を呑んで、ゆっくりと答えた。 「何年かかってもいい。私の奥さんのAIが、ほしい」 「分かった」私はそういうと、点滴を外して、病院の収納棚から黒いポーチを出した。黒いポーチの中には車の鍵と、アパートの電子ロックを外すスマートキーと、スマホが入っている。 「これに全部入ってる。スマホには電子マネーが毎月十万ほどオートチャージされるよう設定してある」 「ありがとう」AIは黒いポーチを受け取った。 「来年の同じ日、同じ時間にウチに来い。その時にはとびっきりの家内のAIを準備しておくよ」 「恩に着る」 踵をかえしてその場を去ろうとするAIに、私は呼びかけた。 「そうそう、私のスマホの出入金データはしばらく警察もチェックすると思うから、当座はバッグに入れておいた銀行カードを使ってしのいでくれ。あまり派手な使い方はするなよ。暗証番号は……」 「結婚記念日だろ」 即答されてうっと詰まる私。私のパスワードに関するデータはAIとは共有していないはずなのに。 「なぜわかった?」 「私は大事なことは一番大事なものと紐づける癖がある。そういうことだ」 そういえばそうだったな、と私は思った。 (了)
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