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ジャジャジャ……。
砂利が擦れる音とともに黒い車が蛤御門をくぐって出てきた。
「あーー、健ちゃん」
運転席に安斎刑事の満面の笑みが確認できた。車は烏丸通りに停車した。
バンッ!
助手席のドアを強く閉める音で、降りてくる人の感情を察することができた。
「あっ、どうも、先ほどは、えーと、今ですね、タクシーを止めようとしております。ハイッ、すぐ帰りますので」
健は慌てて歩道に出て、まだ空車タクシーが来ていないが両手を上げた途端、背後から
「今すぐ、手を下ろしなさい」
犯人に拳銃を下ろせと、降伏を叫ぶ時と同じトーンだったので、健は瞬時に両手を下ろしてピンと背筋を伸ばした。
「柏木さん」
健はゆっくり振り返った。
黒のジャケットが風に吹かれて裾がヒラヒラ波をうっている。ショートカットの黒髪は僅かに毛先が乱れてきた。砂埃が舞う中でも健をガン見する鋭い目つき。
「あっ、すみません。帰れって言われてたのに、あの、いや、えーーと」
健は南警部補の鬼気迫る迫力に怖気付き、静止させるように、両手を前に出しているが、歩みをやめない南警部補。
「すんません、やめてぇー、助けてぇー」
健は、前に出していた手を頭に乗せて腰をかがめた。
「何やってんのよぉ」
南警部補は頭を押さえる健の前に立った。
「えっ、あっ、それで殴られると思って」
「バカじゃないの」
南警部補は呆れながら、大声で最強の否定をした。
「なんで、これで殴るってなるのっ」
「めちゃくちゃ目ぇ怖いし、絶対怒ってますやん、確実にやったろって凶器もってますやん」
「バカっ、タブレットよ、なんでタブレットでなぐるのよ」
「マジそれで殴られるって思いましたわ」
「クククク、アハ、あはは」
安斎刑事が堪えきれなくて、お腹を抑えながら笑いが止まらない
「もー健ちゃん面白いわぁ、あはは、南ちゃん、確かに顔怖い」
「安斎さんまで、いい加減にして下さい。柏木さん、はぁ、ふざけないでください」
南警部補はタブレットを抱えて操作している。
「ふざけてないですよ。でも、すんません。帰ってなかったから、ホンマ怒られると思って」
「まぁ、いいです。柏木さんに見ていただきたいんですが」
「えっ、何ですか」
南警部補はタブレットを健に見せた。
「これは」
南警部補はジッと健を見つめていた。
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