第2話 シーサーって2つで1つなんだよ?

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「ね、ねえカナ!ちょっと!あれ、あれ見て!」  蒼維は2人のテーブルの前に慌てて立ちはだかると、カナの手を引き寄せた。咄嗟に出た声が不自然にうわずって、店に響く。 「は⁉︎なに急に」  突然引き寄せられて、体勢を崩しそうになりながら奏が問いかけたが、何も考えていなかった蒼維はますます焦った。 「えーっと…あ、あのシーサー!でかくね?売り物なのかな、ね、どう思う?」  店の外にある、1mほどの大きなシーサーを指差してみせると、歩いてきた生徒達も蒼維の指につられて大きなシーサーを見た後で蒼維達を見て、なぜかキャーキャー言いながら通り過ぎて行った。 「……欲しいの?」  リアクションに困って複雑な表情をした奏にそう聞かれて「んなわけあるか!」と小声で答えながら背中の方をチラッと振り返る。  何が起こったかわからずぽかんとした顔をした大翔と、何かに気付いてサッと表情が変わった先生。それを見て蒼維は、慣れないことをしてどっと疲れるのを感じていた。 「ね、もう行こう…カナ…」 「うん。それはいいけど…アオくん。この手どうすんの」  戸惑いをみせる奏に言われて初めて、蒼維は手を繋いでいることに気が付いた。 「えっっ⁉︎なんで⁉︎」焦って手を離す。 「や、こっちが聞きたいくらいだけど…ふふ、」と奏は、焦る蒼維を見てツボに入ったように笑い出した。  あぁもう一刻も早く店を出よう、そうしよう。蒼維は肩を震わせる奏の背中を押して店を出た。  ーーー結局俺、ただの変な人だったんじゃ……マジで落ち込むわ……  その時だった。 「……あの!すみません!」  振り返ると店先にさっきの先生が立っていた。  先生は潤んだ目で、黙って頭を下げた。  それにつられるように、蒼維も軽く頭を下げると、首を傾げる奏を連れてその場を後にした。 「ん?あの人と何かあったの?アオ」 「や、別に」 「それにしてはご機嫌な様子ですね……まあいいわ、珍しくアオから手繋いできたしな」  目の前に目の醒めるようなブルーの壁が広がった時、奏は「うん、やっぱり似合うね」と呟いた。 「アオ、今度は連写しないから。ね?こっち見て」  蒼維は素直に向き直り、スマホ越しに奏を見た。  ーーー俺もあんな風に周りが目に入らないくらい夢中になれたら、あの頃すれ違うこともなかったのかな。一瞬じゃなくてもっと手を繋いだら、カナは喜んでくれるだろうか。せっかく沖縄まで来てんのに俺色々考えすぎなのかな。  ……それにしてもなんか長くない? 「ねえカナもういい?撮った?」  奏はスマホを向けたまま、ニッと笑って言った。 「これは……動画でしたぁ〜」 「や、ちょっと!……ふっ……」 「ふははっ!」  思わず笑う蒼維を見て、奏はこれ以上ないくらいうれしそうに笑った。
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