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少し歩くとブーゲンビリアの咲く小道に出た。
この赤い鮮やかな花がブーゲンビリアというのだと、奏も蒼維もガイドブックで知った。
「わ、沖縄って感じだな」
「ね」
2人と同じように散策を楽しむ人々がまばらにいる。
その時、突風が吹いて2人の目の前に帽子が飛んできた。奏が咄嗟に手を出して掴むと、一人の男性が走り寄ってきた。後ろで束ねた金色の髪に、深い緑の瞳。どこの国の方だろう、と蒼維は思った。スカイブルーのアロハシャツが明るい髪色によく似合っている。
「Here you are.」
奏もそう思ったのだろう、そう言うと帽子を手渡した。
「あ、ありがとう…ございます」
相手が少し気まずそうにお礼を言う。
ーーーいや、めちゃくちゃ日本語じゃん。
蒼維は吹き出しそうなのを必死に堪えた。
「日本語で大丈夫でしたね……すいません」
「はは、こう見えて僕普通に日本人なんだ。なんかごめんねぇ(笑)ちなみにこれ、普通に染めてるの」
屈託なく話す年上らしいその人を見て、奏も「そうなんですか?うわ俺だっせえ!」と笑う。
「学生さん?」
「はい。お兄さんは社会人ですよね。金髪って、何されてるんですか?」
「あー、えっとね、比較的自由な会社なんだ。ていうか、僕ら髪型オソロだね」
「そうですよね、俺もちょっと思ってました」と互いに笑い合う様子を見ながら、内心蒼維は「カナってほんと秒で他人と仲良くなるよね…それになんかこの2人の空気似てんな」などと考えていた。
「ハル、若者にちょっかいかけなくていいから。困ってるだろ」
その時向こうからもう1人の男性が歩み寄ってきた。
「すみません」と蒼維に向かって謝ると、半ば強引にハルと呼ばれた男性の腕を掴んで連れて行こうとする。
「なんだよナリ〜、帽子のお礼言ってただけだよぉ。ねえ、何か俺ら雰囲気似てない?髪型とかさ。アロハシャツ着てたらますます似ると思うんだけど!」
ーーーアロハシャツ!
不意にそのワードが出て蒼維はドキッとした。いや実は旅行バッグの中にあるんですよ〜……なんて言えるか!
「もう、ハル初対面の方つかまえて何言ってんの。……あ、すみません、失礼します」
もう1人のナリと呼ばれた男性に電話が掛かってきたようで、会釈をするとその場を離れた。
「じゃあね!旅楽しんで!」
腕を掴まれたままのハルもそう言って手を振ると、奏と蒼維もつられて手を振った。
「なんか…面白い人だったね。俺もちょっとカナに似てると思っちゃった」
「金髪で自由な会社って気になるよね」
「確かに」
そう話していると、前方でなにやら仕事の電話をするナリの「はい、ですが社長は今休暇中ですので、私が代わりに…」という声が聞こえる。
ハルがその電話を奪い取るようにして変わると「変わりました、小田です。秘書の方ですか?CEOに変わってください……Hi,Mr.……」と、さっきとは別人のような話し方で話し始めた。
「………ね、カナ………」
「ははっ、あの人やっぱ英語喋れんじゃん!」
奏はすげえ、と笑うと蒼維の方に向き直って「…でも俺もあのくらいにはなってる予定だから楽しみにしてて」と微笑んだ。
「あのくらいって、英語のこと?」
「まあ、いろいろとね……あ、ねえアオ!あっちのホテルのプールやばくない⁉︎」
「えー、どこ…」
蒼維はホテルの豪華なプールに目を奪われる奏に返事をしながら、前を歩く2人が気になり目で追っていた。
声は聞こえないが、ハルがナリにスマホを返しながら耳元で何かを言っているようだ。先程まで終始クールな表情だったナリが柔らかく笑った。
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