プロローグ 運転中は手、ここね

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プロローグ 運転中は手、ここね

 霧島奏(きりしまかなで)はレンタカーの受付窓口から返された真新しい黄緑のラインの入った免許証を大事そうに財布に戻すと、車の鍵を受け取った。 「それではお車までご案内いたしますね」 「あ、はい!」  ーーーついにこの日が来た。  念願の沖縄旅行。  アオこと一ノ瀬蒼維(いちのせあおい)とは幼稚園からの幼馴染で、付き合ってもうすぐ1年になる。  お互いの誤解もあって3年余り離れた時期があったが、色々あって長い両片思いの末にようやく結ばれたのだった。  今では離れていた時期を取り戻すかのように、大学と専門学校にそれぞれ通いながら、時間の許す限り一緒に過ごしている。  ある日テレビで沖縄を車で巡る番組を観てから、頑張って2人で学校の傍らバイトをして旅行資金を貯めた。  そしてバイトと並行して取った運転免許。  ーーー本当に旅に間に合ってよかった。試験中についアオが助手席にいる想像をしちゃって、カーブで脱輪して仮免に落ちた時は相当落ち込んだけど。  来年から蒼維は美容師として働き始め、奏も今より実習やゼミで忙しくなる。来年以降はこうしてまとまった休日を合わせて取れるかどうかわからない。  だからこそ、今回の旅は思い切り楽しみたいし、蒼維を楽しませたい。その一心で2度目の仮免と本試験を何とかクリアし、ギリギリこの旅に間に合わせた運転免許だった。  レンタカーでの移動にこだわったのには、奏なりの考えがあった。
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