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エンジンをかけていざ車が走り出すと、奏はにわかに緊張を覚えていた。
赤信号で、ふう、とハンドルを握りながら息を吐く。
「運転初めてじゃないし、大丈夫だって。練習でIK◯Aまで行った時も大丈夫だったじゃん。俺ナビするし」
あまりの緊張感に見かねた蒼維は、苦笑いをしながら声をかけた。
「アオの命預かってると思うと何か落ち着かない…あぁもう、チンポジすらいつもと違う気がして落ち着かない!」
運転席で落ち着きなく両足をパカパカ開いたり閉じたりしている奏を見て「バカなの?…お前のはこっちだよ」と蒼維が右を指差す。
「良妻賢母かよ〜」
「使い方絶対間違ってんだろ」
蒼維が吹き出したのを見て釣られて笑うと、入りすぎていた力が抜けていくのがわかった。
奏は笑っている蒼維を優しく見つめながら「運転中は手、ここね」と蒼維の右手を自分の膝に置く。
「そのためのレンタカーだからね、アオ」
奏と目が合うと、蒼維はドキッとして思わず視線を奏の膝に置かれた自分の手に落とした。普段外では絶対に触れ合わない奏の身体の感触。
「……うん」
「アオ、3日間周りの目を気にしないでいっぱい楽しもうね」
「うん」
ーーーそっか、いつもみたいに気にしすぎなくていいんだ。でもなんだか慣れないな。
「……あ、青だ」
奏はゆっくりとアクセルを踏み込む。
車の窓を開けると、お団子にまとめた肩まである茶色がかった髪のおくれ毛が風になびいた。髪色は地毛だ。髪も切るのが苦手で、本人はチャラく見えないかよく気にしている。髪の隙間からは左耳の3つのピアスが見える。
膝に置いた手を意識しながらも、蒼維はその姿に目を奪われていた。
こんな風に始まった2人の沖縄の旅。
この旅がちょっと変わった旅になることを、2人はまだ知らない。
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