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「何やってるのよ!」
牛乳をこぼした小春を、私は怒鳴り付けた。
まったく、小学校二年生にもなって、こんな事もまともに出来ないなんて。
絶対に、あいつに似たんだわ。
私に似たんなら、こんな出来損ないなわけがないんだもの。
ほんっと、イライラする。
咥えた煙草に火をつける。
ため息と共に、煙を吐き出した。
「何で、産んじゃったかなぁ……」
養育費もまともにもらえないし、
私にとって何のメリットもない。
子供を産んだせいで、私の人生めちゃくちゃだし。
ねぇ、ちょうだい。
「? 小春、あんた何か言った?」
小春は黙ったまま、首を横に振った。
「……何よ、その目は」
ほんっと、可愛げがない。
ねぇ、いらないなら、私にちょうだい。
「……なんなの?」
変えたばかりの電灯がぱかぱかと点滅し、部屋がガタガタと揺れた。
「え、やだ、地震?」
振り向くと、部屋の真ん中に子供が立っていた。
小春じゃない。
「あんた、誰よ?」
子供の顔を見て、ぎょっとする。
目も鼻も口もない。
ただ、ぽっかりと真っ黒な穴が空いている。
ねぇ、いらないなら、私にちょうだい。
顔のない子供が、じりじりと近付いてくる。
「来ないで!」
私は悲鳴をあげた。
ちょうだい。
ちょうだい。
私にちょうだい。
「あ、あげるわよ! だから、さっさと消えなさいよ!!」
顔のない子供が、小春に顔を近付けた。
小春は、私の顔を見上げた。
「何か文句でもあるの!? あんたみたいな出来損ないを今まで育ててやったのに!!」
ねぇ、いらないなら、私にちょうだい。
「だから、あげるって言ってるでしょ!!」
ねぇ、ちょうだい。
小春が、こくりと頷いた。
「うん。あなたに、あげる」
…………え?
顔のないはずの子供が、にたりと笑った。
もーらった。
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