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「……あなたは、もう一人なんかじゃないわ」
ずっと私が側に居られるわけじゃない。だけど、もう一人じゃない。彼の心の中に、私という存在が。ベリンダという存在が、ずっといるだろうから。
「私は、離れていてもあなたのことを案じている。……だから、大丈夫」
彼の顔を見上げて、出来る限り笑った。上手く笑えているかは、わからない。ただじっと彼の顔を見つめていれば、アデラールはごくりと息を呑んでいた。
「フルール、あの、さ」
「……うん」
「俺、フルールに、言いたいことが、あって」
とぎれとぎれの言葉。驚いて目を瞬かせる。アデラールは、恐る恐るとばかりに私の背中に腕を回した。
……ぎゅっと抱きしめ合う形になって、なんだか恥ずかしい。
「俺、フルールのこと、好きだよ」
前も聞いた言葉だった。だから、私は目を伏せる。
「まだ、恋愛感情なのか、人としてなのかははっきりとはしない。……ただ、俺にはフルールしかいないんだ」
そんなわけないのに。領民だってアデラールのことを思っている。そう思うのに。……なんだか、その言葉が嬉しかった。
(なんて、不謹慎もいいところなのに……)
アデラールがほかの人に好かれるのが、いいはずなのに。そうだ。アデラールが辺境伯に戻れば、彼と私は会うことはない。……もう、さようならなのだ。……嫌というほど、わかっていたのにな。
「……フルール。俺のお願い、聞いてくれる?」
震えた声で、そう問いかけられる。……返答に困って、私が俯く。アデラールは、ただ待っていた。
「……内容に、よるわ」
結局、口から出たのは当たり障りのない言葉。目を閉じてそう告げれば、アデラールは「ありがとう」と言った。
まだ聞くかどうかわからないのに。全く、律儀なことだ。
「俺、絶対に伯爵という立場を取り戻す」
「……うん」
「だから、そのときに。……フルールのこと、妻にしてもいい?」
予想外もいいところだった。だって、今、アデラール、私のことを恋愛感情で好きかどうかわからないって言ったじゃない……!
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