閑話1 アデラール・ローエンシュタイン(アデラール視点)

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「兄上、大丈夫ですよ。ローエンシュタイン家の今後も、エレンのことも。全部俺が守っていきますから」  それが、大嫌いな異母弟との最後の会話だった。  ◇◆◇  俺、アデラール・ローエンシュタインはローエンシュタイン伯爵家の長男として生を受けた。しかし、生まれてすぐに母は亡くなり、父はすぐに後妻を迎えた。  その女性は高慢な人であり、俺のことを嫌った。いつか自分が男児を生み、その子に跡を継がせるのだと常々言っていた。  そして、俺が二歳の時。……異母弟であるバージルが誕生した。  それ以来、父は俺のことを邪魔者のように扱うようになった。それまでは「一応跡取りなのだから」と言いながらも、それとなく継母から庇ってくれたというのに。  バージルが生まれて以降、父は俺を露骨に疎み始めた。  それはいつしか屋敷内に蔓延し、ローエンシュタイン家で俺は邪魔者のような扱いを受けるように。もちろん、庇ってくれた人もいた。古株の使用人などは、俺のことを助けようとしてくれた。だが、継母はそれさえ気に入らなかったようで、彼らを容赦なく解雇。……その時、俺は気が付いたのだ。  ――俺は、生まれてこない方が良い人間だったと。  それに気が付いて以来、俺は無気力に生きてきた。父に勧められるがまま婚約し、跡取りのための厳しい勉強を強いられた。いや、違う。俺はバージルのスペアとして、バージルのゴーストとして育てられたのだ。バージルが何かをしでかせばその責任を負わされ、彼の代わりに仕事をする。父も継母もバージルには砂糖よりも甘かったので、彼には強くは言わなかった。
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