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「……フルール、か」
夜中。与えられたちっぽけな部屋にて、俺は一人考える。フルールと名乗った彼女は、何処となく気品のある容姿をしていた。貴族の女性だと言えば、誰もが信じてしまいそうなほどだった。けれど、彼女はこの『魔の森』に住まう魔女らしい。……いろいろと、思うことはあるものの助けられたのは真実だ。そのため、俺は彼女にしばらく尽くす。
そして――彼女と、一時的な『家族ごっこ』をするのだ。
俺が小さなころにどれだけ願っても手に入らなかったものを、彼女は与えてくれる。そう、信じている。
(なんとなく、もうバージルやエレンのことも、どうでもよくなってきたな……)
フルールに救われてから、何となく異母弟や元婚約者のことがどうでもよくなっているような気がする。……それは、気のせいではない。間違いない。俺は、俺は――。
(もう、あいつらのことなんてどうでもいいんだ)
フルールに出逢うまでは復讐心をたぎらせていた。なのに、何故だろうか。フルールのことを思うと……その復讐心が消えていく。まだ、出逢ったばかりだというのに。彼女にはそれほどまでに強い魅力が――あった。
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