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(……うん、まぁそこそこ美味しいかも)
ベーコンはカリっと焼けているし、目玉焼きも半熟。ロールパンの焼き加減も完璧。そう思いながら私が食事を進めていれば、不意にアデラールが私のことを見つめているのに気が付いた。……食べにくい。
「さっさと食べて。後片付けもあるんだから」
わざとらしくそう言えば、アデラールは「悪い」と言いながらも食事を再開した。その手つきはまさに優雅の一言に尽きてしまう。さすがは生粋の貴族。食事の風景も絵になる。
そんなこんなで朝食を摂っていると、不意にアデラールが「今日は、何をするんだ?」と問いかけてきた。……今日の、予定、か。
「別にないわ」
「……ないのか?」
「えぇ、急ぐ仕事もないし、別段焦ってすることもない。……今日は適当に散歩しながら薬草集めに行こうかと思っていたくらいだもの」
やれやれとばかりに肩をすくめてそう言えば、アデラールは目を見開く。貴族は忙しく生きていくものだという。そんな彼にとって、私の悠々自適のんびり生活はある意味新鮮なものに映ったのかもしれない。
「……それって、楽しいか?」
怪訝そうにそう問いかけてくるので、私はロールパンをちぎって口に運びつつ、「まぁまぁ、かな」と答える。
「楽しいときもあるし、楽しくないときもある。人生って、そんなものよ」
どうしてこれが人生につながるのかはわからない。けれど、人生とはいろいろあるものだ。辛いことも、楽しいことも。平等とは言えないけれど、ある程度はみんなに回ってくるもの。……そう、師匠に教わった。
「どうせだし、この付近でも案内するわ」
「……いいのか?」
「えぇ、どうせ今日は散歩の予定だったし」
この辺りの地形を知っておいた方が、万が一の時に便利だと思う。そう思って私がそう言えば、アデラールは少し嬉しそうに表情を緩めてくれた。……その表情は、何処となく可愛らしかった。
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