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「あら、気が利くわね」
「……置いてもらうしさ」
私の言葉にアデラールは少し照れたように視線を逸らしながらそう言う。そのため、私は彼の言葉に甘えることにした。
……まぁ、きっちりと働いてもらうと初めに条件を出したのはこっちだけれど。
「じゃあ、こっちに入れて頂戴」
「わかった」
もう一つの魔道具を手渡して、私たちは湖の水を汲む。魔道具は小さなものだけれど、この中には大量の水が入るようになっている。この小さな魔道具一つで、約一週間分の水は手に入るのだ。
「なぁ、フルール」
「……なぁに」
不意に声をかけられて、私はアデラールの言葉に返事をする。そうすれば、彼は「……俺、さ」と言って言葉を切る。
……あぁ、言いにくいことを言おうとしているんだ。
それが直感でわかったからなのだろうか。私の口は自然と「言いたくなかったら、言わなくてもいいわよ」と淡々と言葉を紡いでいた。
「……え?」
「今は、言いたくないんでしょ? だったら言わなくてもいいわ。……いつか、話せるときが来たら教えて頂戴」
いつか。そんな日が来るのかどうかは、わからない。けれど、今はそれを言うのが精いっぱいだった。
「……わかった。ありがとう、フルール」
「いえいえ」
そんな風に話していれば、水を汲み終える。どうやらアデラールの方もあと少しらしく、私は湖の近くに生えている草花や薬草を摘み取っていく。
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