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「……それは?」
「ここら辺には薬草が多いのよ。煎じたら立派な薬になるの」
アデラールの何でもない風の言葉に、私は淡々とそう返す。すると、アデラールは「図々しいこと、言ってもいいか?」と問いかけてくる。……図々しいってわかっているのならば、言わないで頂戴。そう思ったけれど、そんなことを言う元気もなく。
私は静かに「どうぞ」と言葉を返す。視線は薬草に向けたままだ。
「俺、薬の知識が欲しい」
しかし、アデラールの言葉が予想外だった所為で、私は彼の方に視線を向けてしまった。
「俺、やっぱり何かがしたい。……それに、領民にいろいろと還元したいんだ」
……どうして、この男は。そんな風に言えるのだろうか。
「……貴方、もう領主じゃないじゃない」
ゆっくりとそう言葉を返せば、彼は「……そう、だけれどさ」と言いながら眉を下げる。
「けど、ずっと領主としてやってきたから、かな。……俺、そう簡単に領主としての生き方を失えない……かも」
最後の方の言葉はしりすぼみになっていた。
……呆れた。ひどい目に遭ったというのに、彼はまだまだやる気なのだ。
「もちろん無理にとは言わないし、フルールさえよかったら……だけれど」
最後に付け足された言葉に、私は思わずプッと噴き出す。そして「……いいわよ」と言っていた。自分でも、そんな言葉が口から出たことが驚きだった。
「ただし、私のしごきは厳しいわよ」
肩をすくめながらそう言うと、アデラールは「俺、これでも我慢強いからさ」と言いながら笑う。
……何だろうか。これが楽しいということなのだろうか。
そう思ったから、油断してしまったのだろう。私は、足を滑らせてしりもちをついてしまった。……普段は絶対にこんなへま、しないのに。
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