第1話 人、拾いました

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(……でも、師匠と一緒に過ごしたあそこを離れることは出来ない)  そう思いながら、私は『魔の森』にある水辺にたどり着く。ここは『魔の森』と言っているけれど、魔物などは住んでいない。魔力がこもった森と言う意味の『魔の森』なのだ。  しかし、この森の魔力は強すぎるがゆえに、人体に悪影響を与える場合がある。だからこそ、滅多なことではここに近づく人はいない。……例外は、あるけれど。  そんなことを考えて、私は水辺に生えるハーブを摘み取っていく。薬草のほかにもハーブも薬の材料となることがある。それに、薬の材料にならなくても夕食の一品にはなるのだ。摘み取っていて損はない。  銀色の肩の上までの髪を風になびかせながら、私は一心不乱に食べられたり薬の材料になるハーブを摘んでいく。水辺では水鳥たちが水浴びをしており、彼らの邪魔にならないように気を付ける。 (ふぅ、こんなものかしら)  持ってきたかご一杯にハーブを摘みとって、私はふわぁと大きく伸びをする。今日は大収穫かもしれない。……これで香草焼きとか作ったら美味しいかも。 (ちょうど市場で魚を仕入れてきたところだし、今日の夕飯は魚の香草焼きね)  内心でそう思いながら、来た道を戻っていく。  水辺から小屋までは徒歩でちょうど十分程度。道もなだらかで特に気を付けるべきポイントはない。あえて言うのならば、石に躓かないようにすればいいだけ。 (本当に、平和だなぁ)  師匠はよく「ここら辺は面白みのない場所だ」と言っていたけれど、私からすればこの平穏さが好ましい。王都は賑やかだというし、そういうところは私には合わないと思う。……私は、ずっとここで師匠と共に過ごしていきたかった。 (師匠、会いたいなぁ)  師匠は凄腕の薬師であり、魔女だった。だけど、年には勝てずに亡くなってしまった。享年は七十三歳。大往生だと言える年だ。
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