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経済的に困窮していた碧は高校には進学せず、大工の見習いとなって働いている。碧は昔からケンカっ早く、いつも誰かとケンカばかりしていた。それでも私にだけは優しくて、私が地元の半グレ集団に公園で襲われた時も、偶然通りかかった碧が一人で助けに入ってくれたこともあった。
それからかな、休みの日などは碧とこうして公園の芝生の上で寝転びながら、話したりして、お金のかからないデートをしていた。この公園は人の姿が見えなくて、寝転ぶのにちょうどいいのだ。
「じゃあ、あの雲は何に見える?」
私は、上空の風によって形の変わっていく雲のうちの一つを指差して、碧の方を向いた時に強い視線を感じた。なんかすごく嫌な感じ、知り合いだろうか? そう思い、あたりに視線を走らせてみた。
「明日香?」
「え、なに?」
「なにって、明日香こそ何をキョロキョロしてんだよ」
「え、あ、ごめん」
「どうかしたのか」
「ごめん、何でもない。あっ、そう、あの雲、あれ」
私が指差していた雲は風に流されて、すでに先ほどまでとは全く違う形になっていた。
「形、変わっちゃった」
青一色に染め上げられたキャンバスに、綿菓子のような白い雲。でもそれは、眺めるタイミングが異なると全く違う形に見えてしまう。そして、前はどんな形だったのか、思い出すことも困難となり、白い雲は今の形こそが真実だと語りかけているようだ。
それからも、二人で雲を見たり、たわいもない話をしているうちに、先ほど感じた視線については忘れてしまった。
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