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◆◇◆◇
「ねえ、あの雲何に見える?」
私たちはいつもの公園のいつもの芝生の上に寝転んでいた。
「何だろうな、犬かな」
「ええっ、あんな太った犬いないでしょ。どう見ても豚さんじゃない」
「バカ、豚の尻尾は丸まっていると相場が決まっているだろう。あの犬雲の尻尾はフサフサだ」
「へっ? どう見てもフサフサには見えないけれど。碧、センス無さすぎ」
そう言って、碧の方を向いた時に強い視線を感じた。
この前と同じ感じがする。刺すような、射抜くような、決して友好的な視線ではない。
「ねえ、碧。周りに誰か私を睨んでる人いない?」
「はっ、誰が明日香を睨むんだよ。そんな奴いたら、俺がぶん殴ってやるよ」
そう言いながら、あたりに視線を走らせる碧。
「明日香を睨んでいるようなやつは見当たらないな」
「そっか。私が気にし過ぎてるのかな」
「強いて言えば、俺たちを見てるのはあそこにいる野良猫くらいだな」
碧の視線を追うと、そこには全身真っ黒な猫が、確かに私たちの方をじっと見ていた。
「そういえば、最近、ニヤタを見てない気がする」
「ニヤタって明日香の飼っている三毛猫だっけ」
「うん。しばらく見てないな。どうしちゃったんだろう。今、急に思い出したの」
「猫は気まぐれだっていうから、そのうちフラッと現れるんじゃないか」
その日は、二人でニヤタの話をして過ごした。刺すような、射抜くような視線については、すっかり忘れてしまった。
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