さっきの雲は、今はもうこの空にはない

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「何かさ、この前、ニヤタを見かけたじゃない。あれから、変な感じなんだよね。心がモヤモヤするっていうか」 「ニヤタ、ちょっと変だったもんな。あんな姿を見ちゃったからじゃないか」 「うーん、そうかもしれない」  ニヤタ、優しい猫だったのにな。この前は、思いっきり牙を立てて威嚇してきた。思いたくはないけれど、飛びかかってきたのは襲い掛かってきたように見えた。どうしたんだろう。狂犬病みたいな病気にでもなっちゃったのかな。 「ほら、そんなつまんないことを考えていないで、いつもの雲遊びの続きやろうぜ」  つまんないことなのかな。何か大切なことのような気もするけれど、碧が私を気にかけてくれているのはよく分かる。 「そうだね。うーんと、あっ、あの雲は?」 「えっ、どれ?」 「ほら、あそこの大きな木の」  思わず息を飲んでしまった。いつか感じた、あの刺すような、射抜くような敵意を感じる視線。それを今も感じるのだ。 「どうした、明日香?」 「あっちの方から、前にも感じたんだけれど、誰かに見られているような変な感じがするの」 「気のせいじゃないのか? ここには、俺たちしかいないぞ」 「あそこに、ぼんやりと男の人の姿が見える。たぶん、あの人だと思う」  碧は私の視線を追って、大きな木の方に集中し始めた。 「あの野郎」  しばらくして、碧がボソッと呟いた。
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