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「碧、知っている人なの?」
「知ってるっていうか、昔からの因縁みたいな奴だよ」
そう言うと碧はゆっくりと起き上がって、ぼんやりと見える男の人を睨みつけた。
「明日香、絶対に離れるなよ」
私が離れないように、手を腰に回してきた。
「碧————っ」
はっきりと声が聞こえた。これは、あのぼんやりと見えていた男の人の声? どこかで聞いたことのあるような気がする。
「このクソ虫がぁ」
拳を握りながら走ってきた男の人に対して、碧がカウンターを当てるように腰に回した手と反対の拳を振るう。
碧はケンカ慣れしているし、体格もよい。それに比べて、男の人の方は細くてお世辞にもケンカが強そうには見えなかった。このままでは、碧が一方的に暴力を振るった感じになってしまう。
碧を止めようと口を開きかけた時に、信じられないような光景が私の目に飛び込んできた。
走ってきた男の人が、碧の体をすり抜けたのだ。碧の拳は空気を殴ったかのように空振りをし、走ってきた男の人は驚きもせず振り返って、碧を睨んでいる。
背中に冷たいものが走る。怖い、すごく怖い。早く碧から逃げないと。
えっ、なんで? なんで碧を怖いと思っているの? 碧のケンカしているところは何度も目にしている。なのに、なんで今さら怖いと思うの?
「明日香、早く碧から離れろ」
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