19人が本棚に入れています
本棚に追加
昔からの伝説といえば聞こえはいいが、その頃からすでに、知る人も減っていたらしい。今は、約束をしに来る者はほとんどいない。
あの時、父は優しそうな、そして少し寂しそうな顔をしながら、七海に言った。
「七海は何を約束する?」
う~んと唸りながら考え出したのは、小学生になるまでにピーマンを食べられるようになる、ということだった。
地蔵のおかげかどうかわからないが、それは果たされた。おそらく、母のつくるピーマン肉詰めが美味しかったからだろうとは思うが……。
「お父さんは?」
逆に訊いた七海に対して、父は目を伏せしばらく考えていた。そして何かを振り払うかのように顔を上げて応えた。
「これからも七海のことを見守る。そして、人生で大切な節目の時は、必ずお祝いしたり励ましたりするよ」
当時の七海には意味はよくわからなかったが、強い気持ちのようなものが伝わってきた。
父はそれから3年後に亡くなった。
病気だが、余命1年と言われてから2年以上の時が流れていたという。つまり、あの約束を交わしたとき、父は自分の命が長くないことを知っていたのだ。
本当に、見守ってくれている?
夜空を見上げた。木々の合間で月が光っている。問いかけてみても応えは返ってこない。
もう一度、やくそく地蔵に目を戻した。
七海は、父が亡くなってから、目標が定まるとこの地蔵と約束を交わすことにしてきた。医大へのストレート合格も約束していた。今度は、次の約束だ。
しっかり勉強します。そして、お父さんを奪った病気を治療できるようになります。頑張ります。
手を合わせ、深々と頭を下げると、七海は家へと急いだ。
最初のコメントを投稿しよう!