驟雨のなかへ

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驟雨のなかへ

 歩き出して間もなくのことだった。一粒の雨が、俺の行く手に落ちてきた。風が強い。気温の急降下が、肌で分かった。  ほどなくして大粒の雨の一斉攻撃に見舞われた。  傘? そんなもの、持っちゃいないさ。男なんざぁ、少し濡れるくらいがちょうどいい。そう考えていた。しかし、これは……  少し濡れるどころの騒ぎではなかった。ワイシャツがべったり肌に貼り付いている。俺は走るしか無かった。  なりふり構わず走るも、心臓が爆発寸前だった。万事休す。すぐ近く、商店の軒先が見えたのをいいことに、一旦俺はそこに飛び込む。しばらくの間、そこで息を整えていた。 「随分、体力が落ちてきたものだ……」  吐く息がまだ荒い。  張り出した庇を見上げた。雨が滝のように落ちてくる。それらは怒涛のように、道路脇の排水溝を目がけ一気に流れて行った。  どうせだったら、もっと降れ。  もっともっと、激しく降れ……  この街に漂う絶望感、暴言虚言、吐き出された体液、腐った虚栄心、薄っぺらな忖度(そんたく)、汚い隠蔽工作、どうでもいい承認欲求……  それらをすべて、みんなみんな、綺麗さっぱり洗い流してくれ。  その時だった。  バリバリバリッ!  ドドーーーーン!!  闇を切り裂く閃光。目の前に雷鳴が落ちてきた。  ざけんな! おまえら、世の中を舐めんなよ。俺にはそう聴こえた。神の怒りが落ちてきた、ついに爆発した瞬間だった。  寒い……  身体が冷えきっていることに、いま気付いた。撤収。退散。そんな二文字が脳裏をよぎる。戻ろう、それが賢明だ。  振り返ると、つい先ほどまでいたバーの灯りが見えていた。  
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